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日本学術会議法案の撤回を求めるジェンダー法学会理事会声明
なお、これまでジェンダー法学会理事会は、2020年10月10日に「日本学術会議第25期新規会員任命に関する要望を支持する」緊急声明を、同年11月6日に「日本学術会議会員任命拒否問題に対する共同声明」への賛同を、同年11月16日に「日本学術会議第25期新規会員任命拒否に対する抗議声明」を、2023年1月7日に「日本学術会議声明「内閣府『日本学術会議の在り方についての方針』(令和4年12月6日)について再考を求めます」に賛同する」理事会声明を発出している。
1.本法案は、「学問の自由」(憲法23条)に由来する学術会議の独立性・自律性を根底から損なう恐れがある。
本法案については、すでに歴代6人の会長が連名で撤回を求めている。同声明は、「日本学術会議が活動および会員選考における政府からの独立性と自主性を損ない、広く世界の科学者と国際的な科学者アカデミーから、もはや信頼できる科学者アカデミーとして認知されない組織に変質することを強く懸念せざるをえないものとなっている」と厳しく指摘した(「石破茂首相に対して「日本学術会議法案(仮称)」の撤回を求める声明」2025年2月18日)。また、日本弁護士連合会も会長名で本法案への反対を表明した。「本法案が成立すれば、時の政治権力から独立した立場で、政府に対し、科学的根拠に基づく政策提言を行うナショナル・アカデミーとしての学術会議の根幹をなし、学問の自由(憲法23条)に由来する独立性・自律性が損なわれるおそれが大きい」と警告している(「日本学術会議法案に反対する会長声明」2025年3月18日)。
学術会議の法人化は、6名の会員候補者の任命拒否(2020年10月)に端を発し、任命拒否理由が開示されず、是正が図られないままで進められてきた。法人化方針を定めた大臣決定(内閣府特命担当大臣決定「日本学術会議の法人化に向けて」2023年12月22日)に対し、学術会議は、仮に法人化を行うとしても、それは、ナショナル・アカデミーの5要件(①学術的に国を代表する機関としての地位、②そのための公的資格の付与、③国家財政支出による安定した財政基盤、④活動面での政府からの独立、⑤会員選考における自主性・独立性)を充足し、ナショナル・アカデミーのより良い役割発揮に資するものでなければならないと主張してきた(日本学術会議「日本学術会議のより良い役割発揮に向けて」2021年4月22日)。
しかし、本法案は、これら5要件を満たすものとは言えない。むしろ、内閣総理大臣が任命する「監事」や内閣府に設置される「評価委員会」、会員外の者から成る「選定助言委員会」や「運営助言委員会」など、5要件に照らして学術会議側が「到底受け入れ難い」と表明してきた事項がすべて盛り込まれており、学術会議の活動を人事・運営全般にわたって幾重にも縛り、直接間接に政府の統制下に置くことが目指されている。
本法案が成立すれば、時の政治権力から独立した立場で、政府に対して科学的根拠に基づく政策提言を行うナショナル・アカデミーとしての学術会議の根幹をなし、学問の自由(憲法23条)に由来する独立性・自律性が損なわれる恐れが大きい。
2.本法案によって学術会議の独立性が失われた場合、ジェンダー研究を含む人文・社会科学研究の進展が阻害される恐れがある。
学術会議は、2005年以降、諸外国の多くのナショナル・アカデミーが採用している標準的な会員選考方式であるコ・オプテーション(現会員が会員候補者を推薦する方式)を採用している。コ・オプテーション方式に変更後、学術会議会員の女性比率は急速に上昇した。2017年に目標値の30%を達成し、その後も女性比率が順調に伸びている。女性比率の上昇に伴い、法学や社会学、歴史学を含む第一部(人文・社会科学)を中心に多くのジェンダー系分科会が立ち上がり、提言作成や公開シンポジウム開催に尽力してきた。これらの成果は、歴史分析と国際比較を通じてジェンダー視点から日本の政策を批判的に検証し、今後の課題を示すものであった。
このように、現行の会員選考方式についても、学術会議の活動のあり方についても、ジェンダー視点からは特段の問題点は見当たらない。むしろ「政府から独立して」行うさまざまな活動こそが、国会等に届きにくい国民の声をすくい上げ、学術的に検討して政策提言に結びつけることができると考える。
しかし、このたび任命を拒否された6名がすべて第一部会員候補者であり、政府や政策に批判的な学術研究成果を公表してきた研究者であったことを考慮すると、本法案によって学術会議の独立性が損なわれた場合には、批判学としての性格が強い人文・社会科学分野の会員数が削減される恐れを払拭できない。その結果、学術会議で活躍するジェンダー研究者の数が減り、ジェンダー系提言や関連シンポジウムの激減が予想される。それは学術におけるジェンダー主流化を目指す国際社会の動向に逆行するものと言わざるを得ない。女性・女児や性的マイノリティの学術的代弁者が失われることは、日本社会の停滞をいっそう助長すると懸念される。
3.結論
以上から、ジェンダー法学会理事会は、政府に対し、現行の日本学術会議法のもとであらためて2020年10月の学術会議会員候補者6名の任命拒否を是正して学術会議の正常化を図ることを求めるとともに、学術会議の独立性・自律性を損なうおそれが大きい本法案の撤回を強く求める。
2025年3月29日
ジェンダー法学会理事会
以上
参考資料
なお、第26期 第 6 回法学委員会(2025年3月17日)では、下記の文書を「議事録」として公表しています。参考までにお知らせします。
第26期 第 6 回法学委員会会議要旨
日時: 令和 7 年 3 月 17 日(月)19:00~21:30
<別添資料>
・「日本学術会議法案に対する評価」
・「日本学術会議法案に対する意見」
https://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/bunya/hogaku/26/pdf/hougaku-yoshi2606.pdf