ジェンダー法学会第8期理事長挨拶
2021年2月25日 神尾真知子
第8期理事会により、昨年12月に理事長に選出されました神尾真知子と申します。
ジェンダー法学会は、①法学をジェンダーの視点からより深く研究すること、②研究と実務の架橋をすること、③ジェンダー法学に関する教育を開発し深めることを主たる目的として、2003年に設立されました。2012年に設立10周年を迎え、セカンドステージに入り、会員は約350名となりました。2022年には、設立20周年を迎えます。これまでのジェンダー法学会の歩みと研究実績を踏まえながら、サードステージに向けて、さらなる発展に尽力していきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
第7期では、2020年1月から始まった新型コロナ禍に直面しました。
新型コロナは、社会に存在していたジェンダー不平等を顕在化しました。女性労働者は、男性と比較して、新型コロナ感染防止のために影響を受けた飲食業等のサービス業に就き、中小零細企業に就業し、雇用形態が非正規雇用であることが多かったために、最も深く傷つきました。しかし、日本の法制度は、正規雇用労働者を前提としているので、十分に支援することができませんでした。また、世帯主義により、世帯主に一括して特別定額給付金を支給するシステムをとり、ほとんどの世帯主は夫である現状から、DV被害女性は特別定額給付金を受け取れないという事態が生じました。さらには、保育所等の休園や在宅勤務により育児の負担が女性に主にのしかかりました。移動を制限される閉鎖的な空間で、女性に対する暴力も多発しました。
ジェンダー法学会は、2020年12月の第18回学術大会では、「緊急コロナシンポ」と銘打ち、「パンデミック対策とジェンダー・バイアスー新型コロナウィルス感染症への対策が浮かび上がらせたものー」というシンポジウムを開催しました。「公衆衛生、ケア、労働、家庭内暴力、法政策の比較、子どもの支援の現場」から多角的かつ学際的に検討した報告がなされました。もう一つのシンポジウム「性犯罪改正の課題―国際水準とジェンダーを中心に」も含めて、第18回学術大会は、学会始まって以来のzoomでの開催となりました。会員のみならず非会員も多く参加し、チャットを使って、活発な議論がなされました。まさに、ジェンダー法学会ならではの学術大会でした。
第8期は、冒頭で、2月3日の森喜朗・前公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長の女性蔑視発言に遭遇しました。結果的に森前会長は辞任しました。しかし、彼の発言のなかに、ポジティブ・アクションの必要性を理解せず、またポジティブ・アクションの意義を失わせるような内容があることについて、ジェンダー法学会として容認することができませんでした。そこで、ジェンダー法学会理事会として、「森喜朗・前公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長の発言に抗議するとともに、政策等の立案及び決定への男女共同参画の一層の推進を要望し、ポジティブ・アクションの理解を深める取組みの強化を求める声明」を出しました。
ジェンダー法学会は、これまで、ジェンダーにかかわる問題について、声明などを8件出しています。ジェンダー法学会は、ジェンダー平等をめざして、社会に対して発信を行っています。
第19回学術大会では、ジェンダー問題が山積みの「スポーツ」に関して、シンポジウムを開催する予定です。また、「家族像」についても、ジェンダー法学会ならではの切り口で斬り込む予定です。現在、企画委員会でシンポジウムのテーマについて熱く議論しています。
これからも、社会に生起する問題を、ジェンダー法学の視点で分析し、問題を析出し、提言していきたいと思います。どうぞご期待ください。
プロフィール
神尾 真知子(かみお まちこ)
日本大学法学部教授、専門は労働法・社会保障法
主な論文として、「改正女性活躍推進法の意義と課題」季刊労働法270号、2020年、「労働法と家族」(『現代家族法講座 第1巻』日本評論社所収)2020年、「保護と平等の相克ー女性保護とポジティブ・アクション」(『講座労働法の再生 第2巻』日本評論社所収)2017年、「社会保険とジェンダー」社会保障法29号、2014年など。
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