Print Friendly, PDF & Email

Contents

第7期理事長挨拶

ジェンダー法学会第7期理事長挨拶

掲載 2018年3月5日

第7期の理事長に選任された三成美保と申します。ジェンダー法学会の活動をさらに発展させ、日本社会における「ジェンダー平等(男女共同参画)」の実現に向けて取り組みたいと考えています。

2017年のグローバル・ジェンダー・ギャップ指数における日本の順位は、総合114位でした。2012年以来、日本の順位はずっと100位以下でしたが、2017年は最低を更新しました。一貫して、政治・経済の順位が低いことが特徴で、2017年は政治123位・経済114位でした。日本も取り組みを進めているのですが、その進展が滞りがちで、他国にどんどん水をあけられている現状です。その背景にあるのは、日本社会の根強い「ジェンダー・バイアス(ジェンダーにもとづく偏見・偏り)」です。

ジェンダー(性/性別)にもとづく差別や偏見(ジェンダー・バイアス)には、ハラスメントや性犯罪など、目に見える悪質な差別(自覚的な差別)も多々あります。しかし、同様に深刻なのは、「見えないバイアス(無意識のバイアス/アンコンシャス・バイアス)」です。「無意識のバイアス」とは、だれもが潜在的にもっているバイアスで、社会や学校・家庭のなかで固定観念として刷り込まれ、差別意識をもたずに行われるさまざまな押し付けや排除をさします。たとえば、「女子は理系に向かない」とか、「女性には本質的に母性が備わっている」、「男は強くあるべきだ」、「妻子を養ってはじめて一人前の男性」といった価値観は、典型的な「無意識のバイアス」です。こうした「無意識のバイアス」は、個人にとっては自覚がないために抑制がきかず、集団内では「道徳」や「あるべき価値」として正当化されていることもしばしばです。しかも、法制度や社会システム、学校教育や家庭のなかでそれとは自覚されないまま再生産されていきます。1970年代以降、欧米で発達したジェンダー研究は、このような「見えない差別」を次々とあぶりだし、「セクシュアル・ハラスメント」や「ドメスティック・バイオレンス」という定義(言葉)を与えて、見えるようにしてきました。しかし、まだまだ「見えない差別」は厳然として存在します。差別している側もされている側も「差別」とは自覚していない差別や抑圧を発見し、定義を与え、可視化するのが「ジェンダー視点(ジェンダー・パースペクティブ)」です。

「性」は人間の重要な属性であり、アイデンティティの根幹をなします。人間社会に、身体的特徴や生殖機能を異にする「女性」と「男性」が存在することを否定する必要はありません。男女がつがいになることにより、生殖が行われ、「種」としての人類が維持されているからです。しかし同時に、「性」が本質的にグラデーションをなすものであることもまた忘れてはなりません。典型的な「女性」と典型的な「男性」の間には、多様な性が存在します。性的指向、性自認、身体的な性の特徴など、さまざまな面でバリエーションがあるのです。しかも、性的指向も性自認も決して固定的とは言えません。

ジェンダーの問題を考えるとき、「性」を固定的に男女に二分して考えないことはきわめて重要です。そのうえで、「(多様な)性」のゆえに歴史的に抑圧され、今日も差別にさらされている人びとの権利をどのように保障するべきかを考えるのが、ジェンダー法学のもっとも本質的な課題であると考えます。歴史的に抑圧されたのは、しばしば女性という性であり、性的マイノリティも特定の文化では著しい差別を受けました。男性も一様ではありません。男性のなかにも、経済力やふるまいなどを理由に「男らしくない」として、政治や社会的交際から排除・抑圧された人びとが多数存在します。ジェンダーは男性にとっても深刻な問題なのです。また、近年注目されていることですが、「性」は、身分や階級・階層、人種や民族、社会的地位や経済格差などと深く結びつき、「複合差別」のもととなります。「性にもとづく差別」と「複合差別」をともに射程に据え、ジェンダー視点から「これでよいのか?」「これで公正といえるのか?」と問い直さねばなりません。「個人の尊厳」が守られ、だれにとっても「公正」が実現している社会こそが、21世紀で求められている「持続可能な社会」であり、日本社会もそれを目指すべきでしょう。

ジェンダー視点は、「発見」の視点です。いまある価値や制度を「問い直す」視点です。そのためには、理論的な対決は不可欠ですし、実践を通じて救済を試みることも期待されています。ジェンダー法学会は、独立した分野としての「ジェンダー法学」の発展に努力するとともに、法学全体における「ジェンダー視点の導入(ジェンダー主流化)」をめざします。今後とも、みなさまのご支援・ご協力をお願いいたします。

比較ジェンダー史研究会のサイトもごらんください。

→「無意識のバイアス」については以下を参照してください。

男女共同参画学協会連絡会作成リーフレット(2017年8月)http://www.djrenrakukai.org/doc_pdf/2017/UnconsciousBias_leaflet.pdf

(プロフィール)三成 美保(みつなり・みほ)

奈良女子大学副学長・教授、日本学術会議副会長・第一部会員、博士(法学)、専門はジェンダー法学・ジェンダー史・比較法文化史。

最近の著書として、編著『LGBTIと教育をつなぐー学校・大学の現場から考える』青弓社、2017年、編著『同性愛をめぐる歴史と法ー尊厳としてのセクシュアリティ』明石書店、2015年、共編著『歴史を読み替えるージェンダーから見た世界史』大月書店、2014年など。

第7期ジェンダー法学会執行部体制(2017年12月総会~2020年12月総会)

理事長 三成美保(奈良女子大学副学長・教授)

副理事長 吉田容子(弁護士・京都弁護士会)

副理事長 松本克美(立命館大学法科大学院教授)

事務局長 武田万里子(津田塾大学学芸学部教授)

副事務局長 緒方桂子(南山大学法科大学院教授)

第7期理事・監事についてはこちら第7期理事・監事