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ジェンダー法学会第9期理事長挨拶

ジェンダー法学会第9期理事長の後藤弘子です。

ジェンダー法学会が創設されてから、昨年(2023年)で20年がたちました。この20年、学会では、法や裁判が、家父長的なジェンダー差別規範を維持し続ける役割を果たし続けていることを批判し、少しでも社会におけるジェンダー差別規範を変えるべく、研究者と実務家が手を携えて活動してきました。その成果は、20周年記念出版である『ジェンダー視点で読み解く重要判例40』として結実しました。

ジェンダー法学会では、10周年を記念して、『講座ジェンダーと法』全4巻本を2012年に出しています。そこでは、ジェンダー法学の体系化が中心でしたが、今回の本はその体系化を前提として、「性差別と人権」「家族」「セクシャリティ」「暴力・性暴力」「リプロダクティブ・ヘルス/ライツと生殖補助医療」「社会保障・税・逸失利益」「労働」に関する裁判が中心となっています。

この本で扱った事件は、社会の差別的ジェンダー規範によって苦しんでいる人たちが、やっとの思いで上げた声を丁寧に聴いた弁護士たちが、裁判で闘える形にし、法的アリーナに押し上げたものです。差別的対応が裁判になることで、法規範がジェンダー差別的であり、未だ強固に続く家父長制をサポートする役割を果たしていることを、改めて確認できました。皆さんにはぜひこの本を読んでいただき、ジェンダー法のこの10年の歩みを実感していただきたいと思います。

私の専門は刑事法です。刑事法研究者の中で、刑事法をジェンダーの視点から扱う者はそう多くはありません。そのため、何をどのように言っても理解してもらえない焦燥感が常に付きまとってきました。その私にとって、ジェンダー法学会という場所は、オアシスであり、しかも、自分の考えを研ぎ澄まし、常に確認し続ける機会を与えてくれた場所です。その場所に、理事長として、これからの3年間恩返しをしていきたいと思っています。

ジェンダー法学会は、昨年の学会から、大会における差別発言を禁止する注意喚起を行っています。ジェンダー法は、社会のなかで周縁化を余儀なくされた人たちの声を聴いた上で、その人たちと共に、法的手段を用いて、差別をなくすためのあらゆる営みの指針となるものです。その営みを行うためには、誰でもが安心して議論する場所を確保することが欠かせません。これまでの歴代の理事長や会員の方たちが全力で作ってきたそのような場所を、私も理事長として、理事や会員の皆さんと協力して維持していきたいと思っています。

これからも、ジェンダー法学会の活動にご協力をよろしくお願いいたします。