Print Friendly, PDF & Email

ジェンダー法学会理事会声明

男女共同参画社会の発展を阻害する一部地方自治体の動向に憂慮する声明(2008年2月7日)

2008年2月7日
   2007年12月17日に、松山市議会は、請願35号「松山市男女共同参画推進条例の運用の基本方針を明確にすることを求めることについて」を採択した。その請願事項10には、「松山市はジェンダー学あるいは女性学の学習あるいは研究を奨励しないこと」とある。ジェンダー法学会は、このことに対して重大な懸念を表明する。
   ジェンダー法学会は、法学をジェンダーの視点から研究・討議することを目的として、2003年に設立された、日本学術会議の協力学術研究団体である。2008年1月現在、学者・弁護士・司法書士・地方自治体職員・大学院生など男女330名が、会員として、研究と実務の架橋を目指して真摯に学術活動を展開している。その立場から、上記の請願は、男女共同参画社会基本法および憲法の規定に反する重大な問題をはらんでいるものと考える。
   男女共同参画社会基本法第18条は、「国は、社会における制度又は慣行が男女共同参画社会の形成に及ぼす影響に関する調査研究その他の男女共同参画社会の形成の促進に関する施策の策定に必要な調査研究を推進するように努めるものとする」と規定する。さらに第9条が、「地方公共団体は、基本理念にのっとり、男女共同参画社会の形成の促進に関し、国の施策に準じた施策及びその他のその地方公共団体の区域の特性に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する」と規定していることから、地方自治体もまた男女共同参画社会の形成に関する調査研究を推進する責務がある。
   ジェンダー学あるいは女性学は、男女の役割を固定化し、女性の就労や昇進の機会を制限し、家事・育児・介護を事実上強いてきた社会の仕組みを明らかにして、女性も男性も個人としてその意欲と能力を発揮できる社会をめざそうとする実践的な学問であり、まさに男女共同参画社会の形成の促進に寄与する学問にほかならない。こうした学問の学習や研究を奨励しないことという請願事項は、男女共同参画社会基本法の規定に反するものである。
   また、地方自治体が、特定の学問について学習や研究を奨励しないという請願を採択することは、その学問研究に対する誤った理解を助長し、学問研究の遂行に悪影響を及ぼす点で、憲法第23条が保障する学問の自由を侵害するものである。請願者自らが請願事項9に掲げている「表現の自由及び思想信条の自由を侵さないこと」にも反している。
   ジェンダー法学会は、このような一部地方自治体の動向を憂慮し、すべての地方自治体が、学問の自由を保障し、男女共同参画社会基本法の趣旨および規定にのっとって、条例を運用し、男女共同参画拠点施設の管理・運営にあたることを願うものである。
    理事長 浅倉むつ子(早稲田大学)
    事務局長 二宮周平(立命館大学)
    理事:
    阿部浩己(神奈川大学)、安藤ヨイ子(福島県弁護士会)、井口博(東京第2弁護士会)
    伊藤和子(東京弁護士会)、犬伏由子(慶應義塾大学)、井上匡子(神奈川大学)
    内野正幸(中央大学)、戒能民江(お茶の水女子大学)、神尾真知子(日本大学)
    神長百合子(専修大学)、川真田嘉壽子(立正大学)、金城清子(龍谷大学)
    小島妙子(仙台弁護士会)、後藤弘子(千葉大学)、榊原富士子(東京弁護士会)
    武田万里子(津田塾大学)、棚村政行(早稲田大学)、辻村みよ子(東北大学)
    角田由紀子(静岡県弁護士会)、寺尾美子(東京大学)、中里見博(福島大学)
    長谷川京子(兵庫県弁護士会)、林陽子(第二東京弁護士会)、広渡清吾(東京大学)
    松本克美(立命館大学)、道あゆみ(東京弁護士会)、三成美保(摂南大学)
    山下泰子(文京学院大学)、横田耕一(流通経済大学)、吉田克己(北海道大学)
    吉田容子(京都弁護士会)
    監事:
    岡野八代(立命館大学)、満田康子(東京家裁調停委員)

「声明」が愛媛新聞に掲載されました

【愛媛新聞 2008年2月9日記事】
「松山市男女共同参画条例 運用請願採択に懸念 ジェンダー法学会が声明」
 愛媛新聞2008年2月9日がジェンダー法学会の声明を記事として取り上げました。内容は、松山市議会が昨年12月、松山市男女共同参画推進条例の運用基本方針に関する請願を採択したことに対して、ジェンダー法学会が懸念を表明する理事会声明を出したこと、その理由として、「市はジェンダー学や女性学の学習・研究を奨励しない」との請願項目は、「男女共同参画社会基本法や憲法の規定に反する」としていること、ジェンダー学や女性学は男女共同参画社会の形成促進に寄与するものであって、地方自治体が特定の学問を奨励しないという請願の採択は誤った理解を助長し、学問研究の遂行に悪影響を及ぼし、憲法23条が保障する学問の自由を侵害することがあげられ、学問の自由を尊重し、同基本法の趣旨や規定にのっとった条例運用を求めているものであると紹介されています。そして、松山市議会議長と市男女共同参画推進財団理事長に声明を送付したことも記されました。