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ジェンダー法学の役割と重要性に関する緊急声明

2005年7月25日
ジェンダー法学会  理事会有志
  20世紀の最後の四半世紀には、国際女性年と国連女性の10年(1975-1985年)の取組み、女性差別撤廃条約の採択(1979年)、国連世界女性会議の開催など、多くの成果が重ねられてきた。こうした成果は、国内外の広範な市民運動の展開と問題意識の深化をもたらし、日本でも、固定的な性別役割分業を見直す必要性が認識されるに至った。男女共同参画社会基本法(1999年)をはじめとするジェンダー平等社会(gender equal society)の実現をめざす法制度は、個人が男女という性別ではなく、その人の意欲・能力・適性にもとづき自己の生き方を選択できる社会、何人も暴力や不当な威圧を受けることなく個人として尊重される社会を展望しようとするものである。
  しかし他方で、司法界をはじめ法律関係分野にはなおジェンダー・バイアス(性別・性差に由来する固定観念や偏見)が存在し、目標とする社会と現実のギャップは大きい。性別役割分業に基づく従来型の社会への回帰をめざす風潮も根強く、男女共同参画社会の形成を阻む要因や社会構造はなおも堅固であるといえる。
  このような状況下では、性差に由来する不平等や差別が生じた社会的背景、それを支える法制度を構造的・批判的に分析し、これからの時代にふさわしい個人と社会の関係を考え、両性の平等が実現する社会を築くために不可欠な法・制度のあり方を検討する学問研究、とりわけ法学の視点に立った分析・研究が重要な意義をもつ。
  そこで、法学をジェンダーの視点からより深く研究すること、研究と実務との架橋をすること、ジェンダー法学に関する教育を開発し深めることという3つの目的を掲げて、ジェンダー法学会が2003年12月に設立された。ここにはあらゆる法分野・法領域の研究者と実務家が300名以上集まり、多面的な研究成果からの刺激を受けつつ、各自の専門領域を超えて、学際的にジェンダー法学の課題に取り組んでいる。法学におけるジェンダーに敏感な視点の重要性は改めていうまでもない。ジェンダーに敏感な視点に立った研究・実務を進めることにより、本学会では、「女性に対する暴力」問題など、近代社会における法体系が十分対応してこなかった問題に対する反省や考察を含めた貴重な研究成果を蓄積しつつある。
  ところが、最近、一部のメディアや政治的言説のなかに、ジェンダー学、男女共同参画の理念を曲解する動きが目立ち、一部にはジェンダーという用語の使用を制限すべきという主張すらみられるようである。これは先に示した国際的動向や男女共同参画社会基本法に照らして、非常に不可解な主張であるといわざるを得ない。ジェンダーは、社会的・文化的性別を示す言葉としてすでに十分な了解を得た学術的用語であり、階級や民族といった従来の分析概念とならんで、ジェンダーに敏感な視点なしには、人間存在の多様性に配慮した豊かな分析・認識はありえない。法学においても、ジェンダーに敏感な視座や視点は、これまで見逃されてきた、法律学に潜むジェンダー・バイアスを克服するために、非常に重要な観点であることは間違いない。
  われわれは、今後とも高等教育におけるジェンダー法学の普及をはかっていく必要があるという認識のもとに、すべての研究者、法曹実務家、政策担当者、教育関係者、マスコミ関係者等と協力して、大学や法科大学院等におけるジェンダー法学の確立と普及を図り、各専門領域における「ジェンダーに敏感な視点」にたった研究成果の相互浸透を促進して、ジェンダー法学の意義と役割を一層明確にするように努めることを表明する