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男女雇用機会均等法の抜本的改正を求める意見

2013年4月18日
ジェンダー法学会理事会有志
(理事長 二宮周平)
1  男女雇用機会均等法が施行されてから30年にもなろうというのに、日本の女性の経済的地位は後退している。世界経済フォーラムによるジェンダーギャップ指数は、2012年に調査対象135カ国中101位と前年より3位低下した。OECDの2012年のレポートでも、男女賃金格差は韓国に次いで大きく、加盟国平均16%に対し日本は29%、40歳以上の層では40%、子どもがいる男女の賃金格差は加盟国中で最大の61%であることが指摘されている。高学歴の女性ほど結婚・妊娠・出産によって退職し、その後も職場に復帰しない。職位の男女間格差も大きく、上位にいけばいくほど女性比率が低い。上場企業の役員のなかで女性はわずか5%にすぎない。
2  男女間賃金格差は、雇用における様々な場面での性差別が凝縮したものであって、募集・採用から定年・退職・解雇に至る性差別を反映している。しかしながら、男女雇用機会均等法は、性別による賃金差別問題を対象事項に含んでおらず、労働基準法4条は男女賃金格差の是正にあたり効果的に機能していない。
また、日本社会では性別役割分業が強固である。女性は家族のための無償労働に費やす時間が男性より圧倒的に多く、一方、有償労働に従事する時間は男性に偏っている。したがって、育児・介護休業法による権利保障や子育て支援等の社会政策にもかかわらず、女性労働者の6割が妊娠出産により職業を中断している(そのうち1割を超える労働者が解雇されている)。退職した女性が再び常勤労働者として安定した所得を得ることは著しく困難であり、女性は低賃金・非正規雇用でしか復帰できていない。加えて、世帯単位の税・社会保障制度が、被扶養者になっている女性の仕事へのモチベーションを減退させ、課税最低限ないし第三号被保険者認定基準の範囲内で就労=収入調整する傾向に流れており、低賃金労働者は女性に集中している。
3  これらの問題を直視すれば、男女雇用機会均等法の抜本的見直しは喫緊の課題である。しかるに、労働政策審議会雇用均等分科会において、統計データ上の顕著な男女間格差や、妊娠・出産を機に職業を中断する女性が多いことについて、法の周知不足や意識の問題にすぎず、法の見直しは必要ないとする意見が唱えられていることには、重大な危惧を抱かざるを得ない。差別を可視化し、その解消に向けて不断の努力を払わなければ、日本の男女格差は一層大きくなるに違いない。格差を、個人の努力や意欲の問題と見てしまうのは誤りである。
4  定年・退職・解雇における性差別を禁止しても、結婚・妊娠・出産によって辞める女性が少なくないのは、結婚・妊娠・出産により女性を排除してしまう職場環境や制度に問題があるからである。このことは、総合職女性の退職理由を調査した結果からも明らかである(財団法人21世紀女性職業財団「大卒者の採用及び総合職女性の就業実態調査」(2000年)によれば、「仕事と介護の両立のための制度が不十分」(44・3%)、「男性優位の企業風土」(34・6%)、「職場の受け入れ体制、上司の意識に問題がある」(28・9%)、「残業時間が多く自分の時間が少ない」(28・8%)と続いているが、こうした風土・環境・制度はその後の均等法改正によっても変わっていない)。企業は、男女労働者の家族的責任に関するニーズに応える制度を十分に整えるだけでなく、女性がチャレンジしても報われない職場慣行や、より良い仕事と生活への希望を失わせるような職場の「風土」「受け入れ体制」「上司の意識」などの職場環境を根本から改善して、女性の可能性を活かすことに目を向けるべきである。
5  男女格差は、明白な性別による区別・排除から生じているだけでなく、性に中立的であっても、結果的には男女の待遇に格差を生じさせて女性を不利な状況にとどめてしまうような基準から生じており、さらに、仕事と生活の両立を男女平等に確保するための配慮が不十分であることから生じている。女性が低賃金職に集中する傾向も、性別役割分業が強固な社会状況を反映して、女性が集中する職業・職域では「家計補助的」レベルの市場賃金が形成されてきたことによる。同じように、女性が集中している「非正規雇用」の雇用や処遇における不利益も、性別格差として把握する必要がある。 今回の均等法の見直しにおいては、改善されない男女間賃金格差を解消することや、縦割り行政の枠を撤廃して労働基準法4条を効果的に機能させることについても、検討を加えるべきである。男女平等は、女性に対する人権保障の基盤であって、労働基準法4条と男女雇用機会均等法をより実効的に機能させること、雇用におけるジェンダー格差を解消するために法制度を抜本的に変革することが、労働政策の中心に据えられるべきである。
6  国際社会は、経済と産業を活性化させるためには、女性の力をあらゆる分野に活かし、ワーク・ライフ・バランスを徹底するよう、日本に警告を発している。「経済の活性化には男女平等が不可欠」という議論はもはや否定しえないところとなっており、男女雇用機会均等法の見直しこそ、何より優先されるべき法政策である。

7  以上の観点から、今回の男女雇用機会均等法の見直しにあたっては、以下の7点にわたり、法改正を行うべきである。

(1)男女が平等にワーク・ライフ・バランスを享受できるようにすることは、雇用における男女平等の実現にとって不可欠の課題である。したがって、均等法の趣旨目的の中に、「仕事と生活の両立が男女平等に保障されること」を明記すべきである。
(2)均等法は差別の定義を明らかにしていない。女性差別撤廃条約第1条に定める定義(「女子に対する差別」とは、性に基づく区別、排除又は制限であって、・・・・いかなる分野においても、女子・・・が男女の平等を基礎として人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを害し又は無効にする効果又は目的を有するものをいう。)を、均等法の中で禁止されるべき差別として明文化すべきである。
(3)性中立的に見えても、適用した結果男女間に賃金格差を生じさせるような不合理な基準(「世帯主」「主たる生計維持者」などの間接性差別となる基準)を解消できるように、間接差別となる基準を限定列挙している男女雇用機会均等法7条及び関連規則・通達を改正して、限定列挙を例示列挙とすべきである。
(4)雇用管理区分や雇用形態の違いを理由とする不合理な待遇差別は、全面的に禁止されるべきであり、そのために、「雇用管理区分」ごとの男女間差別に限定して差別を解消するという男女雇用機会均等法の規制枠組みは撤廃されるべきである。
(5)女性がこれまで担ってきた仕事や役割の価値を、客観的で性中立的な評価基準に基づいて再評価し、その結果を賃金等待遇格差の是正に反映させる仕組みを作るべきである。それは、ILO100号条約が要請することでもあり、女性の雇用における地位向上とともに、ワークシェアリングを促進させる不可欠な条件だからである。
(6)女性が結婚・妊娠・出産によって就労の機会を失うことがないように、救済の仕組みをより実効性のあるものとすべきである。また、ハラスメントを明確に法的禁止事項とし、男女を問わず労働者がハラスメントから心身の健康を守るために就労を停止し、療養のために一定期間休業したり、その後職場に復帰して働く権利を保障すべきである。これらの権利を具体的に確保するうえで、職場内のハラスメント対策・苦情解決手続きを強し、さらに、現在の機会均等調停委員会をより強力な解決能力のある救済機関とすべきである。
(7)賃金等待遇の格差を解消するツールとして、実態の把握、原因の究明、労働者に対する説明を企業に義務づけ、格差解消に向けた労使の取り組みを促進させる「ポジティブアクション」を制度化すべきである。
 以上、日本におけるジェンダー格差の深刻な実態を直視し、法の見直しに向けて真摯な議論をすすめるよう、強く求めるものである。
(2013/05/02 更新)