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特定秘密保護法の廃止を求める声明

2013年12月22日 ジェンダー法学会理事会
理事長・二宮周平
 ジェンダー法学会は、あらゆる法分野・法領域をジェンダーの視点からより深く研究することを目的に設立された学会です。わたしたちが共有する目標は、個人が男女という性別によって自己の生き方を限定されることのない、ジェンダー平等な社会を実現することです。それと同時に、「その前提として、何人もかけがえのない個人として尊重され、暴力や不当な威圧を受けないという安全が保障される社会を展望」することをも共有しています(学会設立趣意書より)。
 2013年12月6日、度重なる強行採決の混乱の中で成立した特定秘密保護法は、わたしたちが暴力や不当な威圧から自由で安全な社会を展望することを妨げ、ひいてはジェンダー平等な社会の実現を困難にするものであると考えます。ゆえに本学会理事会は、特定秘密保護法の成立に強く抗議し、特定秘密保護法の速やかな廃止を求める意思を表明します。
 国会審議等で明確にされたように、特定秘密保護法は、憲法の定める基本原則にことごとく対立する内容を持っています。国民主権の前提は、政府が何をしようとしているか、何をしているのかを国民が知ることですが、その最も重要な情報を刑罰の脅しでほぼ無際限に隠すことのできる同法は、国民主権の前提を掘り崩すものです。それは、政府の情報を市民が知る権利、報道機関が取材し報道する権利という、憲法が保障する基本的人権の中でも特別な位置を占める主権的権利を危機にさらすことをも意味します。福島原発事故は、政府が国民の生命と安全に関する情報すら隠すこと、多くのマスメディアがあたかも政府見解の広報機関と化すことを明らかにしましたが、特定秘密保護法は、政府のそうした秘密体質やマスメディアの迎合傾向にいっそう拍車をかける危険性があります。
 特定秘密保護法はまた、憲法の平和主義の全面改定を目指す改憲構想の重要な柱として位置づけられています。集団的自衛権の行使を解禁する自民党の日本国憲法改正草案および国家安全保障基本法案(概要)は、いずれもそれと併せて秘密保護法の制定を明記していました。しかし、そうした安全保障の構想が、自国を安全に保つどころか、絶えず戦争を引き起こし、他国も自国も戦争に巻き込む危険を内包していることは、ほかでもない日本の歴史が証明するとおりです。戦争と軍隊がまた、男性性と女性性を刻印された支配と暴力を生み出すことも、戦場での集団性犯罪、戦時性奴隷制、基地買春などによって示されています。
 これに対して、憲法の平和主義は、日本が歩んだ植民地主義と侵略戦争の反省の上に立ち、世界で現在も続く軍事主義の諸矛盾を克服する道を示していると考えます。憲法前文は、「恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利」を、日本国民だけではなく「全世界の国民」がひとしく有することを確認しています。その上で、軍事力によってではなく、「平和を愛する諸国民」との連帯の力を通じてわたしたちの「安全と生存を保持」するとしています。それは、かつて日本が侵略して甚大な被害を与えたアジア諸国との共存を可能とするための、そしてだれもがかけがえのない個人として尊重され、ジェンダーに基づく差別と暴力から自由な世界を築くための、きわめて理性的で現実的な方法です。特定秘密保護法およびそれと一体となって進められつつある改憲構想は、そうしたわたしたちの社会展望を失わせるものであり、断じて認めることはできません。
 さらに特定秘密保護法は、特定秘密の対象を防衛、外交と並んで特定有害活動の防止とテロリズムの防止に関する事項にまで広げており、同法に基づく捜査当局の摘発は、反核、脱原発など自由・平等で持続可能な社会を築こうとする市民運動を弾圧することに利用される危険性があり、市民運動を委縮させ、社会的少数者の視点と社会の批判精神を閉ざしてしまうのではないかと危惧します。
 本学会理事会は、憲法の諸原則を掘り崩し、市民社会の発展を阻害し、ジェンダー平等社会への展望を困難にする特定秘密保護法の成立に強く抗議し、その速やかな廃止を求めます。
(以上)