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日本学術会議法学委員会ジェンダー法分科会他の「提言 男女共同参画社会の形成に向けた民法改正」を支持するジェンダー法学会理事会声明

ジェンダー法学会理事長 二宮周平
2014年7月5日
 ジェンダー法学会理事会は、日本学術会議法学委員会ジェンダー法分科会他が発表した下記の「提言 男女共同参画社会の形成に向けた民法改正」を支持することを表明いたします。


提言 男女共同参画社会の形成に向けた民法改正

2014年6月23日
日本学術会議法学委員会ジェンダー法分科会他

要 旨

1 作成の背景

 1999年の男女共同参画社会基本法の制定から15年目を迎えるが、性別と世代をめぐる社会環境が大きく変動しているにもかかわらず、社会の変化に対応する社会政策や法制度の改革は進まず、そのギャップがさまざまなひずみを生み出している。わが国はGDP(国内総生産)では世界第3位であるにもかかわらず、性別の変数を入れたGGI(ジェンダー・ギャップ指数)では135か国中105位と低迷し、国際的に見ても男女格差は著しい。
 日本学術会議は、一貫して、ジェンダー研究が男女共同参画社会形成に果たす役割と意義について明らかにし、研究の成果を立法や政策形成に還元する必要性を確認してきた。その中で、性差別的な民法規定の改正の必要性についても言及してきた。
 国際的にも、国連女性差別撤廃委員会から度重なる是正勧告を受けており、民法改正の実現は、女性差別撤廃条約締結国としてのわが国の責務である。
 2013年、最高裁違憲決定を受けて、ようやく、婚外子相続分差別規定が撤廃されたが、婚外子差別撤廃とともに、国連から緊急の課題として示された、それ以外の3点については、政府・立法機関による改正の動きは見られない。
 性差別を撤廃し、個人の多様な生き方を認めあう男女共同参画社会形成のためには、選択的夫婦別氏制度の導入などの民法改正が緊急に行われるべきと考え、第22期に設置されたジェンダー関連の4分科会は、民法改正を提言することとなった。

2 現状及び問題点

 1990年代、国民の価値観の変化や女性差別撤廃条約批准に伴う政府方針、諸外国の法整備の動向などを踏まえ、民法改正へ向けての動きがすでに開始されており、1996年法制審議会は「民法の一部を改正する法律案要綱」を公表した。しかし、選択的夫婦別氏制への反対論が根強く、政府案は国会には上程されないまま、20年近く経過した。
 また、政府の「男女共同参画基本計画」(第1次~第3次)では、少子化への対応や職業生活を送る上での障害の解消及び個人の選択肢の拡大が必要であるという認識の下、男女共同参画の視点から家族法制の検討を政策課題として掲げている。
 しかし、以上のような政府方針や国連女性差別撤廃委員会の度重なる勧告にもかかわらず、日本政府は、世論調査の結果を理由に、具体的な民法改正作業に着手してこなかった。
 住民票や戸籍の続柄記載、国際婚外子の日本国籍取得などの婚外子差別については、当事者が訴訟によって問題提起を行い、司法判断の結果、関連諸法や戸籍法の改正が行われてきた。
 これらの積み重ねを経て、2013年最高裁大法廷は婚外子相続分差別規定について違憲決定を出すに至った。最高裁決定を受けて、同年12月、婚外子の相続分を嫡出子の2分の1とする部分を削除するという民法改正が実現した。しかし、出生届の「嫡出子」「嫡出でない子」の区別を問う現行様式を改めるための戸籍法改正は行われなかった。ここには、司法判断がなければ法改正を行わないという立法府の姿勢が表れている。

3 民法改正の提言

(1) 提言の趣旨
本提言では、①婚姻適齢の男女平等化、②再婚禁止期間の短縮ないし廃止、③選択的夫婦別氏制度の導入を提言する。これらは、2013年民法改正で実現した、婚外子差別の廃止と並んで、すでに、1996年の民法の一部を改正する法律案要綱で規定され、男女共同参画基本計画において検討事項とされているだけではなく、国連女性差別撤廃委員会からも是正勧告を受け続けている課題である。上記①・②・③についての改正は頓挫したままであり、今回の婚外子相続分規定廃止の民法改正を契機に、男女共同参画社会形成の視点から、①・②・③に関する法制審議会答申を早急に実現すべきことを提言する。
(2) 提言の内容
① 婚姻適齢の男女平等化
現行規定は男性18歳、女性16歳に達しなければ婚姻することができないとしているが(民法第731条)、これには合理的理由はなく、性による差別である。男女の婚姻適齢を18歳に統一して、男女差別をなくすべきである。
② 再婚禁止期間の短縮ないし廃止
現行規定では、女性は前婚解消の日から6か月間は、再婚することができないとしているが(民法第733条)、再婚後に出生した子の父が前婚の夫か、後婚の夫かわからなくなることを回避するためには6か月は不要であり、期間は短縮すべきである。さらに、離婚・再婚が増加している現在、婚姻をする権利に男女格差があることの不合理性と科学技術の進展を考慮すれば、再婚禁止期間は廃止すべきである。
③ 選択的夫婦別氏制度の導入
現行規定では、婚姻時に夫または妻の氏を称するとしており(民法第750条)、これは夫婦同氏の法的強制を意味する。形式的には性中立的な規定であるが、実際には96.2%が夫の氏を選択しており(2012年)、男女間に著しい不均衡を生じさせている。氏は単なる呼称ではなく個人の人格権と切り離すことはできず、夫婦同氏の強制は人格権の侵害である。個人の尊厳の尊重と婚姻関係における男女平等を実現するために、選択的夫婦別氏制度を導入すべきである。
*提言の詳細にわたる全文は、下記の日本学術会議HPに掲載されていますので、ご参照ください。
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-22-t193-5.pdf