ジェンダー法学会研究会補助金採択研究会についての報告書

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ジェンダー法学会研究会補助金採択研究会についての報告書

申請の通り、2021年7月3日13:30~、大阪工業大学大宮キャンパス知的財産学部(大阪市旭区大宮5-16-1)において、研究会が開催された。本研究会は、関西で恒常的に開催されているキャサリン・マッキノン研究会のメンバーが主催、事務局を行ったものだが、今回の研究会は、森田成也著『マルクス主義、フェミニズム、セックスワーク論』(慶応義塾大学出版会)に関する公開の書評研究会として開催された。

報告の具体的内容は以下の通りであった。

1)森田報告

同書第3章「戦時の性暴力、平時の性暴力」に関連する話題提供として、元「慰安婦」側の訴えを認めて日本政府に賠償を命じたソウル中央地裁判決(2021年1月8日)を素材に、日本政府が取ってきた「国家免除」ないし「主権免除」の立場について批判的に考察された。とくに、日本国家の行為によって甚大な人権侵害を受けた元「慰安婦」の訴えを退けることはまさに、日本国憲法前文の内容である「自国のことのみに専念して他国(の国⺠)を無視」することに他ならず、日本国憲法の原理に反するとされた。また、第二次世界大戦において日本と同盟国であったイタリア、ドイツの憲法と比較しても、日本国憲法がその国⺠主権と国家主権の両方を、特殊に国際協調と国際正義の原則にもとづかせていることは明らかであり、元「慰安婦」の訴えを日本国家として引き受けることこそ、その主権原理にふさわしい態度であると言えると主張した。

2)中里見報告

同書2章「日本国憲法と平等権―フェミニズムから読み解く戦後平等権論争」について報告された。同書で述べられている、日本の憲法学界における「男女平等の問題への無関心」「平等権についての冷淡さ、敵対的態度」について、憲法学の立場から検討された。また、これまでの憲法14条をめぐる学説の議論状況を概観し、通説の限界についても触れられ、14条研究の深化、発展の必要性を指摘した。今後の可能性として、アメリカの人種差別論に依拠して「平等」「差別禁止」を「反従属」の視点から説く少数説が紹介され、性差別の禁止についても反「性的従属」と捉えることの有効性について議論した。

3)松岡報告

報告は、同書第5章「ポルノ被害と新しい法的戦略の可能性」を対象とするものであった。著者が所属するポルノ・買春問題研究会の示した新たなポルノ被害の類型論及び、本書が示すポルノ被害への法的アプローチが紹介された後、ポルノの被害類型の中でもポルノの社会的被害(環境ポルノ被害)に対する「わいせつ規制」を用いた規制について検討された。特に、わいせつ物規制の保護法益に対する人権的観点からの再構成、環境ポルノ被害と環境型セクシュアル・ハラスメントの関係、環境ポルノ被害をもたらすポルノの規制と表現の自由との関係が検討・議論された。

報告後の質疑・討論においても、日本国憲法の主権原理の特殊性の理解や、平等保障規定について通説・判例の問題点、性表現の自由とポルノ規制など、フェミニズム法学にとって重要な課題が提起され、議論された。当日の研究会はウェビナー形式で行われたが、日本全国から30名を超える参加があった。新型コロナウイルスの感染対策のためにウェビナー形式という選択をしたが、結果的に幅広い参加につながったことを付記しておきたい。

なお、研究会補助金については、別途資料のように、報告者への交通費補助(東京―大阪間の交通費への補助3万円)、当日ウェビナー開催の技術サポート者への謝礼(1万円)として支出した。

(文責:申請者・立石直子)