【理事会声明】性的指向・性自認(SOGI)に基づく差別を禁止する法律を速やかに制定することを求める理事会声明(2023年3月17日)

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性的指向・性自認(SOGI)に基づく差別を禁止する法律を速やかに制定することを求める理事会声明

すべての人は、性自認、ジェンダー表現あるいは性的指向に関係なく、同じ機会を得て、差別や暴力から保護される権利を持つ(2022年6月28日G7エルマウ・サミット首脳コミュニケ)。2023年5月、日本が議長国となり広島でG7サミットが開催される予定であるが、現在G7諸国の中で、同性同士の婚姻あるいはパートナーシップを法的に認めていない国は日本だけである。日本の取り組みの遅れを際立たせたのが、2023年2月の内閣総理大臣秘書官(当時)による差別発言であった。同発言は、憲法13条、14条ならびに自由権規約2条1項、17条及び26条により保障される性的少数者の尊厳と権利を根底から否定するものである。

ジェンダー法学会理事会は、このような事態を深く憂慮し、以下の通り、性的指向・性自認(SOGI)に基づく差別を禁止するための法律を速やかに制定するよう強く求める。

1.SOGI差別を禁止する法整備の緊急性

SOGIに基づく差別や暴力は現実に起こっており、生命に関わる深刻な事態もあることから、一刻も早い法整備が必要である。

法務省人権擁護機関は、「性的指向・性自認(性同一性)を理由とする/性的マイノリティに関する偏見や差別をなくそう」を強調事項として掲げ、人権啓発活動を実施してきたが、SOGI差別は解消していない。法務省によれば、SOGIに関する嫌がらせ等の人権侵犯事件は毎年9~26件(2017~21年)新規受理されているが、LGBTの60%がいじめ被害を経験していることや約40%が性暴力被害を経験しているとの調査結果に照らせば、これが氷山の一角であることは明らかである。また、LGBT児童生徒の自死企図率が高いことも明らかにされており、2015~16年には文部科学省が初等中等教育向けに配慮通知を出している。SOGI暴力を根絶し、子どもの安心・安全をはかるためにも、法整備を進めることは緊急かつ必須である。

SOGI差別禁止を明文化する法律の制定には、3つのメリットがある。第一に、LGBT当事者(特に当事者である子どもたち)の尊厳を守り、安心・安全な学校生活及び市民生活を保障することができる。第二に、日本は2019年に国連人権理事会理事国に立候補した際の国際公約として国内でのSOGI差別への取り組み強化を誓約しており、この自発的誓約を守ることによって国際社会の信頼を回復することができる。第三に、LGBTの法的包摂度の高さと経済の活性化は正の相関関係にあり(2019年OECDレインボー白書)、日本国内でも直接・間接の多大な経済効果が期待されている。これら3つのメリットに照らしても、SOGI差別を禁止する法整備を躊躇する理由は存在しない。

2.SOGI差別禁止法の制定

SOGI差別禁止にはLGBT理解増進が含まれるのであって、SOGI差別禁止とLGBT理解増進は矛盾するものではない。しかし、差別禁止を含まないLGBT理解増進法では、LGBTの人びとの権利保障はほとんど実現しない。現在与党が準備しているLGBT理解増進法は従来の法務省人権擁護機関による取り組みの範囲を超えるものではない。このような理解増進の取り組みがあってもなお、公的地位にある者の差別発言が相次ぎ、国際的非難を浴びている現状を鑑みれば、SOGI差別禁止法こそが求められる。

性的指向・性自認に基づく差別を明文で禁止すると訴訟の乱発が懸念されるとの意見が一部にあるが、これは因果関係の認識が逆である。SOGIをめぐるこれまでの訴訟のうち、法的性別変更要件の合憲性を争う訴訟並びに婚姻平等を目指す訴訟は、SOGI差別禁止法の制定と合わせて関連法令を改廃することによって解決される。また、性別により分離される施設の利用については、差別禁止が法律によって明文化され、それに基づいて事業者や管理者が施設の設置目的に照らし、合理的根拠を示して利用条件等を検討・公表する方向での対応が望ましい。SOGI差別禁止法の制定によって、すべての人が暴力や差別の恐れから解放され、安心・安全に生活を送ることができるようになることが期待される。

3.婚姻平等の実現

個人が自由な意思決定に基づいて婚姻する権利は、憲法13条、14条、24条によって保障されている基本的人権である。それにもかかわらず、性的指向のみを理由として、婚姻を認められず、婚姻によって得られるはずの法的保障が得られない状態は憲法14条に定める平等に違反する(2021年3月17日札幌地裁判決)。また、「現行法上、同性愛者についてパートナーと家族になるための法制度が存在しないことは、同性愛者の人格的生存に対する重大な脅威、障害であり、個人の尊厳に照らして合理的な理由があるとはいえず、憲法24条2項に違反する状態にある」とする判決も出されている(2022年11月30日東京地裁判決)。このような違憲状態を国が放置することは、国の不作為にあたる。

憲法24条1項は「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立」すると定めるが、その趣旨は、婚姻が当事者の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきことを明らかにすることにあり、憲法制定時の想定や議論に照らしても同性間の婚姻を禁止するものとは言えない(2019年日弁連意見書)。各種世論調査でも、同性間の婚姻に賛成する意見が過半数に達する。G7諸国をはじめとする諸外国の動向に照らしても、速やかに婚姻平等を実現すべきである。

4.法的性別変更要件の緩和

現行の「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」(以下、特例法)を速やかに廃止し、法的性別変更の手続きを定めた新たな法律を制定すべきである。「性同一性障害」という用語は、特例法制定時に参照されたアメリカ精神医学会の診断基準やWHOの国際疾病分類をはじめとして、もはや国際社会では使われていない。例えば、国際疾病分類における脱精神病理化は、性別への違和感を個人の性のあり方を示す状態として位置づけ直したものであり、単なる用語の変更にとどまるものではない。また、特例法に定められた要件は、かつてはEU諸国をはじめ多くの国に存在していたものの、現在ではその多くが廃止されていく傾向にある。特に、不妊手術要件はWHO及び国連7機関が人権侵害とみなしており(2014年WHO等共同声明)、即座に廃止すべきである。

 

ジェンダー法学は、ジェンダー平等社会の実現を目指し、ジェンダーに基づくあらゆる差別の撤廃に向けて、法や制度を批判的に検証し、その改善を提案する学問である。性別二元制や異性愛主義を維持強化する法や制度は、ジェンダー差別やジェンダー不平等を温存する一因となる。真の意味でのジェンダー平等社会を築くためにも、ジェンダー法学会理事会は、SOGI差別禁止法の速やかな制定を求めるとともに、国際的動向に合わせて、婚姻平等を実現し、法的性別変更要件を緩和するための法改正を期して、以上の通り、声明を公表する。

 

2023年3月17日

ジェンダー法学会理事会

(注)同様の文面は、本Webサイトの「声明」にも掲載しています。