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日本学術会議第25期新規会員任命拒否に対する抗議声明

2020年11月16日 ジェンダー法学会理事会

菅義偉総理大臣は、「日本学術会議」が推薦した第25期新規会員候補者105名のうち6名につき任命を拒否した。日本学術会議は、任命しない理由の説明と速やかな任命を求める要望書を菅総理大臣に提出し、本学会理事会も同要望書に直ちに賛同したところであるが、ここにあらためて抗議の意を表明する。

菅総理大臣による任命拒否は、日本学術会議法の規定に反し違法である疑いが強く存在する。そもそも日本学術会議は、学問が権力により干渉・弾圧され、科学者が戦争に協力した戦前の反省に基づき、「科学が文化国家の基礎であるという確信」に立って、「独立して」職務を行なう「わが国の科学者の内外に対する代表機関」として設置された(日本学術会議法)。背後には、同じく戦前の反省に立つ日本国憲法が、大学その他の学術コミュニティの独立性を制度的に保障した「学問の自由」があるのであって、日本学術会議法の規定は、学問の自由の保障と適合するよう解釈されなければならない。

日本学術会議法は、会員の選任について、「優れた研究又は業績のある科学者」のうちから日本学術会議が候補者を選考して内閣総理大臣に推薦し、その「推薦に基づいて」総理大臣が任命すると定めている。この総理大臣の任命権は、1983年の国会で政府が答弁したとおり形式的なものにすぎず、任命を左右しうる実質的な権限ではないと解すべきである。なぜなら、「優れた研究又は業績」があるかどうかを判断する能力は総理大臣にはないからであり、仮に総理大臣が「総合的、俯瞰的活動を確保する観点」といった抽象的理由で任命を拒否できるならば日本学術会議の独立性ひいては学問の自由に対する重大な侵害となるからである。

任命を拒否された6名はいずれも「安保法制」や「特定秘密保護法」等に反対の意思を表明した人文・社会科学の研究者であることから、それが任命拒否の真の理由ではないかと疑われている。仮に安全保障などの分野で政権の意に沿わぬ研究者は日本学術会議の会員に任命されないとなれば、国の根幹にかかわる政策分野における政府批判の自粛と萎縮が学問の世界全体に広がるおそれがある。それは日本の民主主義の維持、発展にとってきわめて危険なことである。また日本学術会議は学術的成果に基づいて政府の諮問に答申し、勧告する「独立」した機関としての性格を弱め、その結果「文化国家の基礎」が根底から崩壊することが懸念される。

その懸念は、ジェンダーの分野についても同様である。日本がジェンダー平等の達成で先進国において最低水準にある中で、日本学術会議は「男女共同参画」の推進などに向けて多くの声明、要望、報告、提言を行なってきた。日本のジェンダー平等の水準を上げるためには、日本のジェンダー政策や関連法などに対する批判的研究と忌憚のない提言等が不可欠であるが、政府の意向に沿う研究者しか任命されないとなると、真にジェンダー平等な社会を実現するための現状批判的で未来志向的な政策提言は不可能になるだろう。

ジェンダー法学会理事会は、ここにあらためて日本学術会議の推薦する6名の候補者の任命拒否に抗議するとともに、菅総理大臣に対し、6名の任命拒否を撤回して当初の推薦どおり任命すること、任命を拒否するのであれば合理的理由を速やかに開示することを強く求める。

2020年11月16日

ジェンダー法学会理事会